イラスト・絵本・キャラクター制作
    冬壺茶壺 〜かわむらふゆみWebサイト〜
    illustrator/KAWAMURA Fuyumi

 

 

ポキート劇場:238

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超絶技巧 と スコセッシ監督超大作

◆毎回息を止めるようにして見入ってしまう展覧会の第三弾「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」はやはりとんでもなく素晴らしかった。一点一点じっくりと味わう丁寧な仕事、人間業とは思えない精巧な技術。明治時代の名工たちも凄いのだけど、コンピューターの時代にも手でこんなにも造れてしまう若い人たちがいるって事に感動する。

小さなリング状の陶磁、繊細な美しいガラス、リアルなスルメと茶碗の木彫、虹色の数字は螺鈿だし、スニーカーはケント紙でできていて。本物を目の前にして驚愕してほしい。制作過程の動画を見るのを忘れずに! 東京は三井記念美術館で11月26日まで(月休)各地巡回。

 

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◆マーティン・スコセッシ監督の「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」を観た。ディカプリオ主演で、アメリカの黒歴史を知ることになる実話に基づいた3時間半の超大作。白人によって追いやられた土地に石油が出て、大金持ちになった先住民たち。その富を横取りするために次々と殺人事件が起こるという恐ろしくて酷い話。

妻への愛情もありながら愚かな言いなりの男がディカプリオで、笑顔でも腹の中はわからないデ・ニーロは適役、先住民である妻を演じたリリー・グラッドストーンはとても魅力的だった。長さで尻込みする人もいそうだけど、緊迫感でクギ付けとなってダレることなく一気に進んだ感覚。ラストに監督自身が涙を浮かべながら”その後”を語る姿にぐっと来たし、エンドロールは印象的だった「沈黙 −サイレンス−」のときと同じ、自然界の中で人間はなんて愚かなのかと感じ入ってしまった。劇場の大画面で、大音量で、ぜひ。

 

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◆9月に観た「デイヴィッド・ホックニー展」(東京都現代美術館・11月5日で終了)は作品の素晴らしさはモチロン、86歳のパワーに圧倒された。新たなものへの興味と挑戦、そして体力。天才って技術だけではないのだな。凄すぎてなんだか書きそびれてしまった。

10月に軽井沢でたくさんのキノコに会えた。今年は猛暑で時期がずれ込んで、タマゴタケが中旬も続々と出ていたし、逆にクリタケは遅れていて会えなかった。こちらではほんの少しの紹介。インスタグラムの方ではキノコ多めにアップしているので、興味ある方はフォローしてみてください。

〜2023年10月〜

1Cのイラストいくつか 2022-23

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  月刊誌/カット・コラムイラスト/ペーパーハウス(2022-23)

植物と歩く & 山下清 展

練馬区立美術館のコレクション展「植物と歩く」が500円で満足度が高かった。練馬区ゆかりの牧野富太郎の石版画をじっくり観るいい機会になるはず。正確で美しく、こだわりのある精緻な線描にはこちらも息を止めて眼を見張るほど素晴らしい。
牧野には少し物足りなかったらしい大正時代の和綴本「本草図譜」だってとても良かった。現代の作家では、倉科光子の草を描いた水彩画は気が遠くなりそうな細かさで驚いたし、メインビジュアルになっている佐田勝の油彩「野霧」がとても気に入った。可愛らしさと深遠な空気感があって引き込まれた。8月25日まで・月休。

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◆初めて訪れたSOMPO美術館での「山下清展 百年目の大回想」は平日でも混んでいた。テレビドラマでよく見ていたものの、作品を観るのは初めてだった。生誕100年! 子供の頃から49歳で亡くなるまでの才能あふれる作品群はどれも素晴らしくて、細部までじっくり堪能して2時間もかかった(グッズコーナー含む)。
幼い時の虫の絵はシンプルながら的確に特徴をとらえているし、貼り絵なんて”コヨリ”を駆使したスゴ技で圧巻! ペン画も陶器の絵付けもセンスがいい。
その場ではスケッチをせず、一度見た景色は忘れないという特殊能力を持っていたので、後日、さらに何年経っても描けるのだそう。
着物やリュック、文章もあって、ドラマでの独特の話し方を思い浮かべながら読んでみた。生き物系の絵が気に入ったので、久しぶりにグッズに手を出してしまったほどの、オススメしたい展覧会。東京・新宿では9月10日まで(月休)で各地巡回。
〜2023年8月〜

ぐんぐん考える力を育むよみきかせ むしのお話20

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児童書/三話のイラスト/国立科学博物館 監修/山下美樹 作/西東社(2023)

初山滋 展 と ザワザワする映画二本

◆ちひろ美術館・東京で「初山滋展 見果てぬ夢」を観た。没後50年の初山は明治生まれであり、大正から昭和にかけて活躍した童画の世界。子供向けの挿絵だけでなく木版画もあって、見応えのある素晴らしい作品たち。「アンデルセンやグリムばかりじゃなく、オリジナルのお話の絵を描きたい」というような言葉が印象的だった。日本の子供本の創世記、思いが溢れている。

この時代の児童雑誌の挿絵は、今と比較にならないほど質が高くて、憧れであり目標である。絵画的で大人っぽさもあるこの時代のほうが、キャラクター的なかわいさの現代のものよりも、ずっと美しくて洒落てて好き。(6月18日まで・月休)

 

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◆映画は、少し前に「TAR」、公開すぐに「怪物」を観に行った。

ケイト・ブランシェットの怪演が話題だった「TAR」は世界的な指揮者が主人公。古典的な題材でもあり、現代的な創りでもあり。序盤はやや緩慢に感じていたら段々と不穏になり、現実と幻想の判断がわかりにくくなってきて、ラストの凄まじさにドクドクしながら帰宅した。自分なりの解釈はあるものの、いろいろなレビューを読んでは「そういうこと?」と思ったり反芻している。

カンヌで二つも賞を獲った是枝監督+坂元裕二脚本+坂本龍一音楽の「怪物」もやはり、後々も引きずっている。火事で始まり、台風が来て、美しい晴れに。夜の諏訪湖は街明かりの真ん中のブラックホールのよう。一部分から見た景色は、別の方向から見れば違う景色であるということ。

役者たちの演技は皆素晴らしく、中でも田中裕子には感嘆!あのスーパーでの行動、ホルンとトロンボーンの場面にはグッと来た。どちらの作品も心がザワザワさせられてしまい、モヤッとわからないところもある。再度観たら解釈が変わるかもしれない。すごいものを観た。

〜2023年6月〜

未来につながるよみきかせ SDGsのお話 17

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児童書/一話(見開き5枚)イラスト/秋山宏次郎 監修:ささきあり 作/西東社(2023)

やさいのとこや

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<月刊絵本>キンダーメルヘン 6月号/作:山田マチ/フレーベル館(2023)

ポキート劇場:237

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エブエブ と フェイブルマンズ

◆第95回アカデミー賞で7部門(作品、監督、主演女優、助演男優、助演女優、脚本、編集)も受賞! それを知る一週間前に観に行った映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」。香港映画でかっこいいアクションを見せてきたミッシェル・ヨー主演、インディ・ジョーンズで可愛かったキー・ホイ・クァンが夫役で俳優復帰であり感動の受賞で、二人のスピーチには胸が熱くなった。きっと受賞するとは言われていたけれど、なんとも不思議な作品で、未知の映画体験というか、おもちゃ箱をひっくり返したような、脳内のあらゆる世界を行き来するハチャメチャさ。勢いと展開の目まぐるしさに、遊園地の乗り物に必死でつかまっている気分で140分。ふぅー。すごかった。

やはりぶっ飛んでいた「スイス・アーミー・マン」の監督と知って、あぁ!ナルホドと思った。アライグマの場面は最高だし、石の場面は大好き。下ネタあり、笑いあり、ほろりと親子愛。今までのアカデミー賞のタイプとは全く違うし、ついて行けない人もいるかもしれないけど、この体験はきっと面白い。

 

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◆もうひとつ映画「フェイブルマンズ」も観に行った。スピルバーグ監督の自伝的作品で、両親が亡くなってすぐに製作されたという。こちらも長く151分。ゴールデングローブ賞は作品賞と監督賞を獲得したけれど、アカデミー賞は7部門ノミネートで無冠に終わって残念だった。母親役のミッシェル・ウィリアムズがとにかく魅力的で、主演女優賞がこちらのミッシェルでもおかしくないくらい。

時代の空気感や、土地の雰囲気、変わってゆく関係。アメリカは広く、住む場所により人々も違う。ずっと夢中になってきた映画の情熱は変わらずに持ち続けている。ラストに登場する大監督を演じている人にびっくりした! スピルバーグ監督との接点を感じない人だけどニヤニヤしてしまった。それにしても、さすがスピルバーグ、間違いない作品でとても良かった。母が弾くピアノの音色がノスタルジックな気持ちになって心に残る。

〜2023年3月・その2〜

エンパイア・オブ・ライト と 別れる決心

◆しばらくどこへも出かけず、コツコツと仕事の日々。タイミング良く映画の日に時間が空いたので、早朝に一本、昼をはさんで午後にも一本、同じ映画館でハシゴをした。

一本目は、サム・メンデス監督の「エンパイア・オブ・ライト」。イギリスの海辺にある映画館で働く中年女性と、新しく加わった若い男性。1980年から1981年のサッチャー政権下、映画はフィルムの時代。スペシャルズの新譜のレコードをお見舞いに持っていくところに懐かしさでグッと来た。そう、あの大きさをワクワクしながら持ち歩いたし、友達と貸し借りをしたり部屋に飾ったりしたなぁ。

傷ついた過去、傷つけられる日常。未来はきっと明るいと思いたいけれど、2023年現在だって、パワハラ・セクハラも人種差別も無くなっていないし、不安定な心の人も多そうだ。優しく接してくれる人もいるのが救いであり希望なのか…後半に涙がとまらなくなってしまった。じんわり心に染みる作品だと思う。

 

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◆そしてパク・チャヌク監督の「別れる決心」が二本目。韓国の山頂から始まり、海辺で終わる。睡眠障害の刑事が夫殺しの容疑者に惹かれてゆくが、現実と想像が時に混ざり込んでいるのは心の揺らぎを感じたけれど、思いをやたら吹き込んで録音するのは謎だった。ズームの多用もちょっと変だけど不思議な浮遊感があり、夢の中の出来事にも感じる。

山の形、海辺の岩、気の遠くなる階段に急な坂道など、こんな場所が本当にあるの?!ってくらいロケ地が面白かった。ラストは衝撃的で、キム・ギドク作品に通じるものがあった。何度か観ると、また違いが出てきそうな、なんとも興味深い独特の作品でオススメしたい。

本や映画などアートは、束の間の幸福感を与えてくれて、栄養となって残ってくれる。どちらもとても良かった。やはりちゃんと観ておかないと。

そしてミモザがほころんでいる。それを目当てに散歩する。なんて美しい!沈丁花も香ってきて、それもいい。アミガサタケはまだかとソワソワし始めている。

〜2023年3月〜

ポキート劇場:236

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ポキート劇場:235

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ザ・メニュー と junaida展

◆先月はコツコツとひたすら仕事だったので、ようやく時間ができた途端、映画と展覧会に行った。

映画は「ザ・メニュー」というグルメ界をキョーレツに皮肉った怪作。船でしか行けない孤島にある超高級レストランに、予約の取れた10数人の客たち。店側も客側も胡散臭いし、冒頭から不穏な空気が漂っている。伝説のレストランだったエル・ブジに憧れたことを思い出したり、たしかに、あるある、なんだかね、のこの感じ。古くは「コックと泥棒〜」、新しくは「ミッドサマー」の雰囲気を思い出した。ちょっと疑問なところもあるのは置いとくとして、洗練されたホラーを楽しめた。

 

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◆久しぶりの展覧会は「junaida exhibition  IMAGINARIUM」へ。junaidaの絵本は手に取ったことがあり、日本人離れしたセンスに驚いたので、これは原画をじっくり観たかったから。

会場の作りも素敵だし、ずらりと並んだ端正な作品群に圧倒された。インクとガッシュで彩られた美しい色々!細かく緻密に描かれたワクワクする世界。手描きの技術は息を呑むほどすごい。隅々まで楽しく、美しく、本当に描くことが好きなんだなと思う。

絵本「の」のアイデアが特に好き。絵本を買うつもりだったのに、あまりに素晴らしい原画を観た後だと、印刷の絵にがっかりしてしまって… 仕方ない事だけど、あまりに原画が美しかったということ。こんなに才能のある人がいるんだなんとただただ感動した。東京の市部、立川のPLAY! MUSEUMで2023年1月15日まで。その後巡回あり。

〜2022年12月〜

ガガガはかせと ピピピはかせ

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はっけん!(がっけん つながるえほん)/11月号 おはなし 作・山本和子/学研教育みらい(2022)

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七人楽隊とか 昔の玩具とか

◆久しぶりに足を運んだ映画は「七人楽隊」。香港映画の有名な7人の監督がフィルムで撮った7つの短編オムニバス作品。古き良き時代への郷愁を感じさせるものが多く、数回ホロリとした。あの、危なっかしくも懐かしい、街なかスレスレの飛行機を目にしただけでもグッと来るのだから。

ギラギラと魅力的な悪役が多かったフランシス・ンやサイモン・ヤムの好々爺ぶりったら、誰だかわからないほどで、それもまた良くて。全く変わらない姿の人達にもニヤニヤ。90年代に夢中になった香港映画に再会できた嬉しさと、もうあの頃とは違うという切なさがある。

香港に行ったら林檎日報を買って上映映画のチェックをした頃もあったけど、廃刊にされてしまったし、政府に声を上げていた若者たちの動向はどうなっているのだろう? 自由な空気が狭められていそうで悲しくなる。香港らしさのある文化が消えないよう願っているし心配だったのに忘れていたから、観て良かった。自分のこと、周りのこと、世界のこと、地球のこと。心配が多すぎる。

 

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◆中野区立歴史民俗資料館で「中野でめぐる郷土玩具の旅」(10月30日まで)と「コドモの学びと遊び」(12月4日まで)はどちらも小規模ながらチマチマと楽しめる。「コドモ〜」の方で、昔遊んでいた相撲ゲームがあって!自分の昭和を思い出した。私の横で7,8歳の男の子が「懐かしい〜」なんて言っていたのには驚いたけど。

 

◆雨が多い分、降らない時にはなるべく歩くようにしている。先月から、近所だけではなく電車で30分ほどの所へも行ってみたら新鮮で、週イチ〜せめて月に一回、トレッキング気分で脳にも身体にも効きそう。そしてそろそろ、新型コロナワクチン予防接種も四回目だ。またまた、まだまだ続くのかな。。

〜2022年10月〜

ポキート劇場:233

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2022年9月に出会ったきのこ達

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今月は、軽井沢に少し滞在したのと、あとは仕事こつこつ、そして雨雨雨。映画は観ていないし、アート巡りもいまひとつ、本は買っても積んだまま。

 

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9月上旬の軽井沢で出会ったきのこ達の中から、選りすぐった写真をまとめてみた(ひとつだけ仲間はずれあり)。だんだんと気持ちいい季節になってゆきながら、値上げだの、アレだの、腹立つことは多いから、たまに外に出て、目に心に栄養をあげなくては。

 

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〜2022年9月〜

浅間フォトフェス、映画、きのこ

◆軽井沢の隣町の御代田”PHOTO MIYOTA”で、今年で三回目の「浅間国際フォトフェスティバル」に行った。浅間山を背に、または林の中でバスの中で、ひんやりした館内で、バラエティ豊かな写真を楽しむことができて、毎回とても充実している写真展。ウクライナのイェレナ・ヤムチュック、フランスのトーマス・マイランダー、日本の石内都、韓国のキム・ジンヒの作品がなかでも気に入った。

500円の入場料で期間中何度でもOKなうえ屋外は無料エリアというのは嬉しい。やはり雄大な浅間山とともに楽しみたいので天気の良い時のほうが気持ち良くてオススメ。9月4日まで。

 

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◆ウォン・カーウァイ監督がプロデュースしたタイ映画「プアン / 友だちと呼ばせて」を観た。美しい男性、しっとりした映像、切ない思い、音楽とともに展開…と、ウォン監督のテイストを意識したというだけあり(別の香港の監督のテイストも一箇所あり)90年代に夢中だったあの感じを思い起こしてとても良かった。このバズ・プーンピリヤ監督の作品をもっと観たくなった。

そして「WKW4K / ウォン・カーウァイ 4K」で、5作品が4Kとなって久々に劇場公開となり、さんざん観たけど一番好きな「欲望の翼」は入ってなく、大画面でもう一度と思った「ブエノスアイレス」を選んだ。レスリー・チャンはやっぱり魅力的だったな、とかいろいろ懐かしく、往年のファンと知りたい若者とで劇場はぎっしり!熱気がすごかった。あの時代のあの空気感に今も同じように揺さぶられるのかどうなのか。ハマったらどんどん掘り起こしていくのだろうな。

 

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◆この夏も素敵なきのこ達との出会いがたくさんあった ↑(応募したのは含まれず)。きのこ写真を撮るようになって、どんどん惹かれていき、ここ7年ほどはすっかり沼にハマってしまっている。初めは運動のためのウォーキングだったのが、今ではきのこ目当てに歩くようになっていて、そのためには朝5時台にも起きられるし、雨が降るのも喜べるし、小さなワクワクを持てて、コロナ禍の単独行動でも退屈なしで、イイコトばかり。探索ー観察ー撮影。食べる目的ではなく、出会って愛でるため、素敵に写してみたい思いで心が躍る。

去年に続いて今年も、日本菌学会の菌類写真展に”ふゆつぼ”の名で3枚応募した(会員でなくても一人3枚までOK)。素人でも研究者でも、菌類に興味のある人達の写真がたくさん!カワイイもの、珍しいもの、顕微鏡の世界など様々で楽しいので、ぜひご覧ください。9月25日まで1ヶ月ほど鑑賞可能。→「菌類写真展 2022

〜2022年8月〜

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ベイビー・ブローカー と 初シロキツネノサカズキ

◆是枝監督が韓国映画界と組んで撮った「ベイビー・ブローカー」を観た。是枝作品は好きだし、中でも「空気人形」が気に入っているから、ペ・ドゥナとの再タッグが楽しみだった。すっかり大人になってやさぐれていたけど、ラストの笑顔に今までの仏頂面の理由がわかった。そして、出演作にほぼハズレ無しのソン・ガンホ。カンヌで最優秀男優賞まで獲って、やはり間違いなかった。

まるで韓国映画だとも思うし、是枝さんらしさもとても感じた。階段を上ってゆくシーンとか、人生を考えさせる誠実さとか。子供を死なせてしまう人、授からずに悲しむ人、授かって困る人、いろいろな立場があり、辛いニュースを聞くたび胸が痛む。倫理だけじゃ語れない問題。この映画が一石を投じることになってほしい。

 

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◆7月頭に軽井沢できのこ探索をして、会ってみたかった”シロキツネノサカズキ”に会えた。とても小さく、乾燥して地味な姿でも、見つけた時はカワイイ!と興奮(写真・左下)。その日の夜に雨が降り、翌朝見に行くと色鮮やかでふっくら美しくなっていて(右下)嬉しさ倍増となった。きっとさらにカワイイ”開いた姿”に立ち会えなかったのが残念だったけど、またの機会を楽しみに。

 

この夏の初かき氷は生イチジク。涼しい日にボリュームたっぷりの氷を食べてしまったので、美味しかったのに、最後の方は気づくとフウフウ息をかけながら食べていた。猛暑は苦手でも、やはり氷は暑い日に食べたほうが良さそう。

〜2022年7月〜

ヨシタケシンスケ展 と FLEEフリー

◆世田谷文学館で「ヨシタケシンスケ展かもしれない」を観た。平日のお昼、思ったとおり、思ってた以上に混んでいて、さすが大人気の絵本作家だと思ったし、子供よりも大人のほうがずっと多かった気がする。なんといってもずらりと並んだアイデアスケッチが圧巻!で、日々の観察のたまもの、ふとした思いつきのユニークさ、面白いのだ。実際のスケッチは小さく薄く文字なんて芥子粒くらい。展示されてる多くは、濃く拡大されて見やすくなったもののよう。大学時代の造形作品もとても面白くて気に入った。こっちのアーティストとしても結構いい線行ってそう。

そして、世界各国で翻訳された本もたくさん!こんなに夢中にさせているなんて、しかも次から次と新作を生み出していてスゴイ。東京は7月3日までの日時予約制で、残念ながらすでに完売。今後各地へ巡回のおりは早めの行動をおすすめ。

 

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◆映画「FLEE フリー」は、アカデミー賞の3部門にノミネートされたデンマークの作品で、本人とわからないよう名前などを変えてアニメーション表現にした実話のドキュメンタリーとのこと。戦地となったアフガニスタンを脱出してロシア経由で北欧を目指す家族の過酷なストーリーは、a-haの"Take on me"で始まり、あぁあの頃かと懐かしく思った。

「ペルセポリス」というイランの少女がフランスに脱出する話(コミックもアニメーション映画も素晴らしい!)を思い起こしたが、今作品もとても良かった。難民であることとゲイということで苦しい思いしてきたアミンが大人になり、誰にも話してこなかったことを告白する。現在の満ち足りた輝きが続くこと、同じような状況の人々が救われることを願わずにはいられない。

描き込んだ絵ではなく、シンプルなアニメーションながら、ときにラフななぐり描きとなるのも効果的で、実写で静かに終わるのが胸に迫った。とても考えられた手法であり、今の世界情勢のなかで観るべき作品だと思う。

 

もう梅雨は終わってしまった?と心配になるほど暑くて降らない日が続く。温暖化のせいなのか、厳しい夏になりそうで早くもうんざりしている。

〜2022年6月〜

ポキート劇場:230

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むしむし とどけーっ

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キンダーブック1/7月号おはなし/作・おだしんいちろう/フレーベル館(2022)

 

思い出の人形たち

◆このところ忙しく、映画も展覧会も行けていない。ゴールデンウィークあたりは家の片付けをして、しまい込んでいた懐かしい物や古い本の仕分け・整理をしたりした。昔々両親がヨーロッパ旅行をした時の土産であるマトリョーシカ。けっこう大型で、中に三、四体は入っていたはずが、二体しか入ってなく、しかも一つは違う種類! 一番小さい黄色い子はどこへ? ぐるぐる模様がたくさんで気に入っていたはずなのに、こんなオモシロ顔だったっけ? というわけで古道具屋に引き取ってもらったら、すぐに売れたらしい。

写真左上のパペット人形も同じ時の土産で、たぶん旧チェコスロバキアのもの。子供の頃はピアノの上に飾ってあって思い出深いし、なんともノスタルジックな雰囲気で素敵だ。これは手放せない。ただ、ずっと謎なのは、この二体、おばあさんとおじいさんなのか、良いおばあさんと悪いおばあさんなのか、よくわからない。チェコの人が見たら何の物語の登場人物かわかるのかな?

 

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◆春に標高の高い所で会えるシャグマアミガサタケに、今年も軽井沢で出会えた。独特のワイン色で大型なので目に入りやすく、猛毒でクシャクシャの皺だらけ姿を不気味と思う人もいるけれど、私には魅力的だ。何本も並んでいる場所を見つけた時はそれはもう大興奮だった! そして都内ではそろそろ、きのこの本格シーズンが始まった。雨が降るとそわそわして、早起きの早朝散歩が苦にならないこの頃。

〜2022年5月〜

ポキート劇場:229

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映画を三本、アミガサタケは何本も

◆このところ観たい映画がたくさんあって、今月は三本、劇場で観た。

まずはアカデミー賞を獲ってすぐ「ドライブ・マイ・カー」を。3時間超えも気にならず、いかにも村上春樹テイストを感じさせつつ、この監督の感性で俳優たちの魅力を引き出したようで、静かな感動があった。特に、岡田将生の車内の告白シーンには涙があふれて止まらなくなったし、手話の女優の生き生きと美しい姿が素晴らしかった。後々しばらく経ってから、ふと思い出してじんわり来るような作品かもしれない。村上作品はけっこう読んでるのに、この本は未読なので読んでみたくなった。

 

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◆俳優でもあるケネス・ブラナー監督の子供時代を投影したという「ベルファスト」がとても良かった!  ほとんどがモノクロであり、北アイルランド紛争が勃発して巻き込まれてゆく話というと、暗く重苦しいイメージかもしれない。けれど、1969年の9歳の少年の日常とその家族の話であり、貧しかったり病気だったりのなか、皆で映画(懐かしいチキ・チキ・バン・バン!)を観に行き、音楽を楽しむ。こういう体験が芸術的土台になってるのだと思った。俳優もサントラも素晴らしいし、誰にでもオススメしたい愛らしくて大好きな作品。(トイレに関しては驚いたけど)それにしても、プロテスタント対カトリックって、、同じ地域で、、人間って。

 

◆ギレルモ・デル・トロ監督の作品は劇場で観ることにしているので「ナイトメア・アリー」も。おどろおどろしい見世物小屋の世界。最後はああなるんだろうなと途中からわかるし、後味が悪い、エンドロールの画面が気持ち悪いったら。でも、はらはらドキドキ、映画らしい綺羅びやかさもどん底もありで、劇場で観て良かった。

 

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◆4月といえば、桜が散る頃に出てくるアミガサタケの季節。毎年会うのを楽しみにしているきのこで、いつもの場所に加えて新たな生息地を数カ所見つけられて嬉しい。ブラック系は見たことがないけれど、イエロー系といっても個性豊かで、網目の細かさ、軸の太さ、大きさも形もいろいろで、厳密には細分化されるのかもしれない。アミガサタケはそろそろ終盤で、本格的なきのこシーズンが始まる。仕事に余裕がなくて”合間に散歩”とはいかないので、ほぼ毎日5:50に起きて、早朝ウォーキングを兼ねた”きのこ観察”をしている。朝ワクワクして、夜は早寝になっているから、健康にも良さそう。

〜2022年4月〜

ポキート劇場:228

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ミロ展と リチ展と

◆Bunkamura ザ・ミュージアムでの「ミロ展 〜日本を夢みて」は、今まで何度か観てきたミロの展覧会を、日本との関係性に焦点を当てた見せ方が新しくて面白かった。ミロが子供の頃はヨーロッパで日本ブームがあり、若いときの油彩画に浮世絵を貼り付けたりしている。1966年に初来日をしてから、書の影響を受けて”黒”を強く使用するようになったとか。

’69年に大阪万博のため再来日をして壁画の制作、瀧口修造をはじめとした交流もますます深めて。埴輪に影響されてるらしい立体に、日本的な壺。信楽焼の狸と並ぶ写真がいい表情で。愛蔵の民芸品のあるアトリエで、イマジネーションを膨らましたのかな。ミロは知ってるつもりでも、新鮮なナルホドがあって充実していた。4月17日まで・土日祝と4月11日以降は日時予約制。

 

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◆三菱一号館美術館での「上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー展」も素晴らしかった! 19世紀末のウィーンに生まれ、京都出身の日本人建築家と結婚して来日し、両国で活躍した女性。色彩とデザインの感覚が卓越していて、お洒落でカワイイ作品を生み出していた。学校でも厳しく指導にあたったらしいので、職人にも決して妥協しなかったはず。刺繍や七宝のデザインは素敵で細かくて、それに応えた技術者たちの凄腕には驚いてしまう。七宝って、こんなにも美しいものだったんだと目からウロコ。マッチ箱カバーという存在も時代を象徴してて面白い。

1935年制作の花鳥図屏風がとても気に入った。外国人ならではのモダンさがあって。彼女が内装をデザインしたレストランやクラブに行ってみたかったし、小物も持ちたかったな。高級で手が出なかったかもしれないけど。グッズは期待ほどではなくて残念。近くの日比谷公園や丸の内仲通りを散策するのはオススメで、5月15日まで。

 

◆映画「ウエスト・サイド・ストーリー」は音楽が思い出深く大好きな作品。あの名作を今さらリメイク?しかもスピルバーグ監督が?と思っていたけれど、劇場で観て良かった! 前作が好きならばやはり観ないと。ミュージカルは大画面で良い音響で、歌とダンスの躍動感を浴びたい。アニータ役がアカデミー賞助演女優賞を獲って当然の素晴らしいアニータだった。リフ役もマリア役もいいと思ったけど、トニー役がデクノボウ過ぎるような。リタ・モレノが今年90歳というのが感慨深い。今やる意味があるし、白人が肌を茶色く塗らないだけでも修正の必要があるということ、いろいろと問題があるのにまだ気付いていないことが沢山ありそう。

〜2022年3月・その2〜

ポキート劇場:227

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楳図かずお大美術展

◆ようやく一息つける時が持てるようになり、「楳図かずお大美術展」に行った。子供の頃、怖くて眠れなくなったりするのに、読まずにいられなかった恐怖漫画の数々。おろち、”呪いの館”たまみ、鬼姫、漂流教室、洗礼…!!まことちゃんのノー天気さと有名人のそっくりな似顔を楽しんだり、ひょうひょうとしたご本人もテレビによく出てたし、吉祥寺でお見かけしたこともあった。今回は集大成的なものというより、今までの作品世界を振り返りつつ、そのエキスを現代アーティスト3名がインスタレーションにしていたり、漫画ではない新作コーナーがある。

今年86歳になるというのに、4年をかけて101点のアクリル絵画にした「わたしは真悟」の続編である「ZOKU SHINGO」。”禁じられた遊び”の物悲しいメロディが流れる中、1点1点がひとコマとなり、絵本をめくるように読み進んでゆく。この形式は初めての体験かも? 物語世界に入り込めてとても良かった。濃密な鉛筆画と華やかな色使いのアクリル画の両方ともあり、この熱量から、まだまだ楳図かずお健在!なのが伝わって感動した。六本木ヒルズ森タワー52階の東京シティビューにて、東京タワーを中心としたパノラマと共に観るのが大切で、夜も良さそう。日時指定で混雑なく、3月25日まで。その後大阪へ巡回。

 

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後期の作品である「わたしは真悟」も「14歳」も実は読んでいないのだけど、表紙絵のコレクションが素晴らしくて、たくさんポストカードを買ってしまった。グッズの希望を言えば、サバラ、グワシやギザギザの吹き出しのバッジなどが欲しかったな。ある年代以上には思い出深く、先見性のあるストーリーにハッとするものの、道路が舗装されていないしインテリアもファッションも時代を感じるし、若者たちはどう感じるのかな、とちょっと気になる。

◆新型コロナのワクチン3回目接種を受けた。3回ともファイザーで、2回目までは少し腕が重かったくらいで済んでいたのに、今回は噂の副反応がやって来た。昼に打って、深夜に悪寒でガタガタ震え、アゴ周りのリンパがドクドクとなり、翌日は熱が出て一日寝ていた。ふだんは36℃前後なので最高37.9℃まで上がったのは久しぶりにグッタリ(だいぶマシな方だけど)。周りの友達も一日で下がったと言っていたとおり、翌日には下がってホッとした。これで心おきなく春を楽しめるのだろうか。

〜2022年3月〜

フレンチ・ディスパッチ と 夢二の切手

◆観に行きたいモノはたくさんあるのに、何かと忙しく、今月行けたのは、映画「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」だけだった。ウェス・アンダーソン監督作品となると、やはり劇場で観たい。おしゃれ〜で独特な、こだわり世界は、好きな人にはたまらなく魅力的だけど、ハマらない人には訳わからず、テンポの速さにもついていけないかも。私は大好きだけど、隅々まで観るには何度も観ないと気づかない所がきっとあるはず。インテリアもファッションも、色使いのセンスが抜群なのはいつものこと、今回は雑誌をテーマとしているので必然的で、アート、政治、グルメの3つの章がぎゅぎゅっと詰まっている。

アートでのデル・トロの迫力に驚くし、モデルを舐めてひっぱたかれるシーンが好き。章ごとに雰囲気も表現も変わって、モノクロだったりアニメーションにしたり、自由自在にやりたい事をやっている。いつもの朝の始まり方の繰り返しなんて、とてもいい。大物俳優たちが挙って参加している、この究極のオタク愛あふれる映画を浴びてニヤニヤするのは幸せだ。それにしても、タイトルの長さったら!

 

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◆2月1日発売の”竹久夢二の花図案”切手が素敵で、手紙のやり取りも少なくなったのに、つい買ってしまった。大正ロマンのデザインが可愛らしく、色はレトロ感があり、84円タイプの縦長の形が特にいい。使うのがもったいなくて、これは、買い足させようという作戦にちがいない。

気持ちをざわつかせる件があるものの、、そろそろ春になるし、仕事もやっと楽になるし、ワクチン三回目接種も済めば、いろいろ観に行きたいなと思う。

〜2022年2月〜

ポキート劇場:226

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ぐっと来たモノたち

◆新年早々は落ち着いていた新型コロナの感染者の数も、この頃ではどんどん増えてしまっている。美容院などでしか電車に乗って出かけることもなく、外出はウォーキングと買い物だけの日々に戻ってしまったけれど、カリンの実やロウバイ、アロエの花も楽しんで、梅のふくらみも確認。

お気に入りの陶芸作家の展示会で、先月下旬に購入した作品がようやく届いた♫ ヘンテコで役に立たないユニークな作品を創作している「フクモ陶器」。2012年に六本木のミッドタウンで展示した時には”六本人”を、今回のは”ツボハンド”で、どちらも手がモチーフ。上部の蓮の形は取り外せるけれど手の部分は穴だらけで水は入れられない。でも蓮の穴にドライフラワー的な何かを挿したいと目論んでいる。

 

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◆きのこ関連の本は着々と増えている。図鑑はどんどん高いものが欲しくなるし、画集にも手を出す始末。今月読んだ文学「きのこのなぐさめ」(ロン・リット・ウーン著 / みすず書房)がとても良かった! じんわりと沁みる。きのこに興味がある人には共感を持って面白いし、そうでない人にも興味深い世界に感じるのではと思うし、同じような境遇の人にはなおさら心に残るはず。春らしくなるとそわそわ、アミガサタケに会える日が待ち遠しい。

〜2022年1月〜

ポキート劇場:225

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今のうちに展覧会へ

◆「クリスチャン・マークレー  トランスレーティング[翻訳する]」展(東京都現代美術館にて2022年2月23日まで)は、擬音好きな私にはとても興味深かった。音の視覚化、そしてその翻訳を想像するという面白い体験ができた。コミックのなかの擬音や、印刷物のなかの音符を集めたり、映画のなかの楽器演奏場面を集めたり。レコードジャケットを使った作品、声だったり音だったり… "Sirence"というタイトルの作品にはニヤリとしてしまった。ただの白い平面をよーく見ると、日本人にしかわからない言葉が見えてくる。

2011年のヨコハマトリエンナーレで観た彼の作品「The clock」は、あらゆる映画のなかから、全ての時間の出てくる場面を順につなぎ合わせた24時間の映像作品であり、ヴェネツィアビエンナーレの金獅子賞を受賞した作品。あまりに面白くていつまでも観ていたいものの体力気力とも無理だろうし、制作作業の膨大さには想像を絶する。とにかく最高だったので、今回はその時ほどの感動はなかったけれど楽しめたし、これからも気にしておきたいアーティストの一人。

 

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そしてそのチケットで、MOTコレクション展も観られてオトク。たくさんの収蔵品のなかから「Journals 日々、記す vol.2」として集められた作品群はとても充実していた。特に気に入ったのは大岩オスカールと康夏奈で、どちらも風景を描いたもの。みっちり丁寧に細部まで目を通してあって素晴らしかった。

◆そういえば、世田谷文学館で観た「描く人 谷口ジロー展」(2022年2月27日まで)も圧倒的な筆力、徹底的な観察力での丁寧な仕事の数々に見入った。”一日一コマは当たり前です”という言葉には頭が下がる。才能と努力はもちろん、とにかく描くのが好きだったからこその完成度の高さなのだと思う。

◆「フィリア 今道子」(神奈川県立近代美術館 鎌倉別館にて2022年1月30日まで)は独特の美がぎっしり詰まったモノクロームの写真展。キャベツ、魚、繭、鳥、タコ、きのこ…を使って組み立てたゴシックな世界。ヤン・シュヴァンクマイエルの映像や、メキシコの死者の日が思い起こされる。美しくてグロテスク、静かな豊穣を感じて、とても良かった。

 

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今年も早かった。新型コロナの感染状況は去年の今頃よりもずっと落ち着いているし、ワクチン効果もあるうちに仕事の波が来る前にと、展覧会をハシゴし、ようやく二年ぶりに数人の友人達と食事もした。今後どうなるのかは未知の世界。少しでも前向きに物事が進んでゆけるよう期待したい!

〜2021年12月・その2〜

ポキート劇場:224

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和田誠展 と 新たな一歩

◆東京オペラシティアートギャラリーでの「和田誠展」(10月9日〜12月19日まで・月休・各地へ巡回)が素晴らしかった! 2019年に亡くなるまでの約80年で制作された多彩で膨大な作品がずらーり。40年も描き続けた週刊文春の表紙はモチーフごとに並べられていて、圧倒されながらも一つ一つじっくり観て楽しめた。映画や演劇のポスター、本の装丁、絵本、アニメーションどころか、映画監督もエッセイも一流の才能があった稀有な人。シンプルな線も色使いも美しい。

多摩美大時代の作品の質の高さには驚くし(ベン・シャーンに傾倒しすぎな気もするけど)、デザイン界の先駆者である杉浦非水や山名文夫に教えを受けていた事にびっくりした。直に交流があったなんて羨ましい時代。なんとなくもっと昔の方々というイメージがあった(もう自分の世代も今の学生からしたら昔なのだろうけど)。若い世代もたくさん観に来ていたし、ぜひ観るべき展覧会だった!

 

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◆この秋はだいぶ暖かくて、紅葉もゆっくりめに感じる。コロナ感染者が少なくなって、ワクチン効果がなくなる前に、友人と久しぶりに会ったりしている。フリーランスで仕事をしていると、コロナ禍でなくても一人。良くも悪くもマイペースな私としては特に問題はない。けれどたまに、グループ展や社会貢献的なコトをしたい気分になっていたところ、お誘いがあり、友人も生き生きと活動をしていたので、児童出版美術家連盟(童美連)というところに入会してみることにした。

子供向けの本に絵を描いている人の団体で、同業者との交流や活動、著作権についての相談や勉強ができるようで、まだ入会の承認をされたばかりで、”ひとつ扉を開けてみた”といった感じ。子供向けの仕事に限定してはいないし、できれば幅広く描いてみたいとも思うけど、描いてて楽しいのは絵本や児童書というのも事実。新しい一歩が今後に活きてゆきますように。

〜2021年12月〜

ポキート劇場:223

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もっと! かがくのお話 25

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考える力を育むよみきかせ/国立科学博物館 監修/山下美樹 作/西東社(2021)

ピーター・シス と 胞子紋の世界

◆練馬区立美術館で「ピーター・シスの闇と夢」(9/23〜11/14・月休)を観た。旧チェコスロバキア出身でアメリカに亡命し、絵本作家のモーリス・センダックの勧めで絵本作家となった方。東欧独特のダークな雰囲気は、社会主義国ならでは?の抑圧された体験から来るのかもしれない。自身を投影したアニメーション「かべ 鉄のカーテンのむこうに育って」は短いながらも素晴らしかった。

マンハッタンを鯨に例えたポスター画もステキ。新聞などに描いた緻密な線画は、絵本の表現とは違う良さがあり、どちらも質の高い仕事だ。実は彼のことを知らなかったのだけど、昔観に行った映画「アマデウス」のポスター画を描いた人だと、今回知った。黒い人物が全面を覆っていて、なんとも不穏なイメージだった。ミロス・フォアマン監督が同じようにチェコスロバキアからの移民という縁からだそう。なかなか見応えのある展覧会だった。各地へ巡回予定。

 

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◆新潟、清里に続いてやっと東京にも!と早速向かった「渡辺隆次 胞子紋の世界展」(目黒寄生虫館の近くのコミュニケーションギャラリーふげん社にて11/4〜11/21まで・月休)。八ヶ岳山麓に暮らす画家・著述家で現在82歳、きのこ好きには有名な方だ。きのこの胞子紋に筆を加えた作品”胞子紋画”をまとめた画文集の刊行記念の展示であり、きのこの細密画作品もあって、どちらも素晴らしい。

黒い紙の上にきのこを置いて一晩たつと、胞子が落ちた跡が現れてるのに魅せられたことから、”わがイコン”と呼ぶほどの対峙の仕方は、なんだかこちらも神聖な気持ちになる。スーパーで売られてるきのこも胞子を飛ばしているのをテレビでやっていたし、試してみたいなと思う。きのことの共同作業はワクワクするに違いない。

 

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◆けっこう人気のシリーズになってるらしい「かがくのお話 25」の新刊「考える力を育むよみきかせ もっと!かがくのお話 25」が11月8日に発売! 今回も2つのお話(月の形、宝石)の絵を担当。きれいな装丁で分厚くて、楽しみながらタメになる本なので、たくさんの子供たちのお気に入りになってほしいな。そしてさらにシリーズが増えていったら嬉しく思う。

〜2021年11月〜

だるまさん

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ひかりのくに11月号/おうちでもてあそびイラスト/ひかりのくに(2021)

トーベ と 庵野秀明展

◆子供の頃、TVアニメのムーミンが大好きだった。1970年前後の初期作品は、岸田今日子の声と”おさびし山”やモラン等でちょっとした暗さと怖さがあって、スノークの広川太一郎の軽快さが中和していた気がする。原作とかけ離れすぎているとトーベから苦言があったらしいけど、大人になって原作絵本を見て、確かにずいぶん違う雰囲気で、さらにダークな世界であり、ずっと魅力的な絵であるのを知った。

トーベのドキュメンタリーも見たことがあり、面長でシワくちゃな顔で無邪気に泳ぐ姿に、活発で中性的な印象を持った。今回、映画「トーベ」を観てナルホドと納得。エンドロールでの本人が踊る姿はけっこう衝撃的で、まさに彼女を表しているのだろうなとニヤニヤしてしまった。大戦後の保守的な時代に、才能と人に恵まれて自由に生きた稀有な人! オススメだけど子供向きではないし、ほんわか可愛い映画だと思っていくとビックリするかも。

 

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◆国立新美術館で「庵野秀明展」(10月1日〜12月19日・火休/各地へ巡回)を観た。幼少期に影響を受けたいろいろの”過去”、アマチュア時代〜大ヒット作の制作過程の”現在”、アーカイブ機構の立ち上げと最新作についての”未来”。わりと年齢が近いため、子供の頃に観ていたTVアニメや特撮モノが同じで懐かしかった。美大時代にアニメーション制作もしたし、絵コンテ等の制作過程が興味深かった。とにかく絵が上手で緻密。爆発の広がりの表現がすごい。それに模型にも目を見張った。ゴーヤにも!

未来少年コナンや宇宙戦艦ヤマトには夢中になったけど、ガンダムやエヴァンゲリオンは観たことがない。映画「シンゴジラ」やNHK「プロフェッショナル」は観ている。そんな私が招待券を得て観に行ってみたら、質量ともにすごくて圧倒され、堪能できた1時間半だった(平日で予約制のため混雑なくて良かった)。ネットでは、観るのに3時間かかった、5時間だった、何度も行くだの言っている人もいるようで。ファンにはタマラナイだろうし、ファンじゃなくても楽しめた。

と、才能の塊を目の当たりにしてしまった。あふれるアイデアと情熱と努力と。甘々で気が散ってばかりの自分を反省。いい季節になってきたんだけどな。

〜2021年10月〜

ポキート劇場:222

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ずっと ずーっと つながってる

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<月刊絵本>こどもちゃれんじじゃんぷ 読み聞かせプラス5・6歳/9月号

作:瀧波ユカリ 文:ささきあり 絵:かわむらふゆみ/ベネッセコーポレーション(2021)

ポキート劇場:221

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パビリオン・トウキョウ 2021

◆7/1〜9/5まで、新国立競技場周辺エリアを中心とした各所に、アーティストあるいは建築家の創作した”パビリオン・トウキョウ”が設置されていた。オリンピックとパラリンピックの開催と重なる期間、ほんとうは多くの観光客の目に留まるはずだったもの。夏休みや緊急事態宣言を避けて仕事の都合もあって、結局9月に入ってからの曇った平日に4ヶ所だけ巡ることができた。

まずは九段下のkudan house。以前から訪れてみたかった洋館では予約制で館内の企画展「The Still Point - まわる世界の静止点」の作品が点在した空間が素晴らしかった! スパニッシュ様式というのか大好きな造りに優雅な気分になれたし、庭園ではパビリオンである「木陰雲」(石上純也)が日差しを遮って心地よかった(写真右下)。

 

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そして神宮外苑いちょう並木入り口にドドーンと「東京城」。ブルーシートの城とダンボールの城。会田誠らしい皮肉が効いたパビリオンは、形よくしっかりした出来で迫力十分。

次にワタリウム美術館で予約を取り、10分ほど歩いた角にあったのは、ひと目で藤森照信の作だとわかる芝で覆われた茶室「五庵」。斜め向かいに巨大な新国立競技場(初めて観た!)がそびえている。3、4人ずつ二階と一階に分かれて10分少々ずつ滞在。二階からの眺め、木のテーブルを囲んだ雰囲気が気持ちよく、楽しくて温かみのある藤森建築を体験できて嬉しかった。

最後に向かったのは代々木公園での「雲のパビリオン」(藤本壮介)。空気を入れてふくらませる雲。夏の青空には映えたはずなのに、だんだん暗く小雨模様になってしまった。でも好きだなぁと思う作品だった。

このところは一人黙々とアート巡りをしている。一人でもじっくり楽しめるからいいんだけど、たまには誰かと一緒に共有したい時もある。そう出来る日はいつになるのかな。それに、いつの間にか音痴になっているかもしれない。。

〜2021年9月〜

安西水丸と ディヴィッド・バーンと

◆今月は遠出もせずにせっせと仕事。新型コロナのワクチン接種も無事二回目を終え、心配していた副反応は大したことなく、ホッとした。そして一段落ついたところで、行っておかなければならないモノを観た。

展覧会は、世田谷文学館での「イラストレーター安西水丸展」(9/20までに延期)へ。ゆるい絵に見えて、絶妙な配色とシンプルな形はセンス抜群で、マネの出来そうで出来ないイラスト。集めていたお気に入りの物が作品と並んでいたり、生活や旅の様子、村上春樹や嵐山光三郎や和田誠との交遊など、彼の絵と同じように会場の構成も楽しかった。

ガロの漫画だと雰囲気が変わり、子供の頃の絵の上手さとノートの緻密さには驚く! 全盛期を知らない人にも是非オススメしたい素晴らしい展覧会だった。

 

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◆映画は、5月から公開されてるのに行きそびれていた「アメリカン・ユートピア」が新宿で期間限定で上映とのことで、ようやく出向き、これが本当に良かった! ブロードウエイでのライブを映像化した、劇場で大画面でいい音響で体感すべき作品。トーキング・ヘッズの特にファンだったわけでもないのに、なんというか、幸福感に包まれたようになったのは、コロナ禍で足りてなかった感覚はこういう事なんだなと思う。

白髪になったデイヴィッド・バーンは歌い方は変わらず、シニカルで思想的で、ヒドイ世の中でも希望を持ちたい、選挙に行こう、と。スパイク・リーに依頼した意味もわかるし、ユーモアを混ぜて堂々と発言し、軽やかに自転車で帰る。素敵だ。今のほうが昔よりも魅力的に見える。バブルの頃、西武美術館で観た「クルト・シュヴィッタース展」は、人生最高の10本に入る展覧会だったので、そのシュヴィッタースの詩を諳んじたのには高揚してしまった。全身で、言葉とパフォーマンスを堪能できる素晴らしい作品だった。

 

◆映画をもうひとつ。「ジュゼップ 戦場の画家」はアニメーション作品だけど、収容所での辛い日々がほとんどで、なめらかな動きも少ないため、退屈する人もいるかもしれない。私がこの実話に興味を持ったのは、彼がフリーダ・カーロの最後の恋人と言われているから。ラスト近くのメキシコでの日々は短くても引き込まれたし、本当のラストシーンが良くて、満足感があった。

〜2021年8月〜

ポキート劇場:220

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梅雨の楽しみ、そして梅雨明け

◆梅雨の時期は、きのこ好きには楽しい季節。発見と観察に忙しくて、ちっとも運動にならないウォーキングがやけに長引いてしまう。最高に完璧なタマゴタケに出会えて興奮し、翌日また会いに行くとタマゴからスポッっと抜き取られていて愕然!公共の場や人の土地での採取は禁止なのに。

 

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◆仕事とコロナ禍のため、映画もアートも観に行けてない今月。前から楽しみにしていた「目」の”まさゆめ”(大きな頭が代々木公園の上空に浮かんだアート)は目の前で観たかった! またの機会があって欲しい。

梅雨明けしたらギラギラの猛暑(きのこは消え去り)、そしてオリンピックが開幕。ぎりぎりになってもゴタゴタ続きで祝祭感は無くなり、重苦しいムードだったけれど、ブルーインパルスをベランダから見上げたら、ようやく気分が上がったのは確か。そして開会式。会場の広さを活かせてなく、散漫な印象は残念に思った。コンパクト、エコ、復興、延期、コロナ禍なのだから当然かもしれない。北京やバルセロナのような華やかな時代とは違うのだから。

 

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女子ボクサーの孤独な走り、森山未來のダンス、ドローンの地球、アナログなピクトグラムは良かった! プラカードのフキダシも嫌いじゃない。みんな好き勝手に言ってるけど、現場の人は本当に大変だったと思う。そして、競技が始まったら想像を超えたメダルラッシュ! 選手たちには頑張ってほしいし素直にドキドキしながら応援している(仕事がはかどらない)。と同時にコロナ感染者はどんどん増えている。

ワクチン接種はまだ1回目が済んだばかり。2回目での副反応が人それぞれで、どうか軽く済みますように。

◆玄光社のムック、illustration FILEのシリーズである「絵本のいま 絵本作家 2021-22」が今年も出ました。私も掲載されているので、多くの人に手に取ってもらい、繋がりができることを願ってます。

〜2021年7月〜

ポキート劇場:219

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ファッション イン ジャパン 1945-2020

◆国立新美術館で開催されている展覧会「ファッション イン ジャパン 1945-2020 〜流行と社会」(6月9日〜9月6日まで・火休)はとても大規模で見応えがあった。戦後のもんぺ、洋裁の時代。着物から洋服への変化なんてスゴイ事だし、自分で作るモノだった服が店で買うモノとなり、高度成長期、ヒッピー、バブル、ガングロ、ゴスロリ、kawaii…、サステイナブルへ。

中原淳一の”それいゆ”の世界は、今見ても抜群に洒落ていて、パッチワークの着物に目が釘付けになった。ボディコンスーツは着なかったけど、DCブランドは通った道。愛用していたI.S.のニットのシリーズが展示されているのを見て、あ!と思い出が蘇った。

ユニクロ以前の”家で着る普段着”というのは、毛玉や染みのついた着古した服だったはず。MUJIやユニクロのおかげで日常の服が小綺麗になったのは間違いない。華やかで贅沢な80年代から一転して、環境や社会問題を考えるべき時代となり、そんな中からまた新たな面白さは出てくるのだろうな。

最後のインタビュー映像(49分)は必見! 業界の第一歩を創ってきたデザイナーやスタイリスト達は今でも魅力的で、イイ時代を生きて来たという輝きを感じたものの、一番共感したのは都築響一で、いろいろと腑に落ちたのだった。ショップも見て3時間ほどかかるとみて、ぜひ訪れてほしい。

 

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◆そして、映画「アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン」にも興奮した。2018年に亡くなった”ソウルの女王”アレサ・フランクリンの若き日の1972年1月13日と14日の二夜に渡ったゴスペルのライブはCDにはなっているが映画はずっと未完だったとか。

ロサンゼルスのバプティスト教会で目を閉じて歌う姿は、彼女の信仰の深さを身体じゅうから溢れ出る声で表していて神々しい。やはり牧師で歌手の父親のカリスマ性も凄かった。音楽もの映画は劇場に限る。

オリンピックまであと1ヶ月ほど。本当に開催されそうになってきた。ワクチン接種はもうすぐだけど、はたして。気づくと2021年ももう半分終わってしまう!

〜2021年6月〜

ポキート劇場:218

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「マーク・マンダースの不在」展のことなど

◆今月はまるまる緊急事態宣言下で、映画館へも美術館へも行けていない。マスクを外すこともないし、大して密になるわけでもないのに閉められているし。先月下旬の宣言前にギリギリで観に行った「マーク・マンダースの不在」(東京都現代美術館)が素晴らしかった! 圧迫感のある大きな彫刻も、家具と組み合わせた危ういバランスのもの、抽象的なものも、どれも不穏な空気をまとっている。撮影不可の「夜の庭の光景」と階下にあるラストの作品は実際に死を表現していてゾクッとした。静寂だけど饒舌に語りかけてくるので、心がザワザワしてしまうのに嫌な気持ちにはならない。まるで作業中のアトリエを巡っているような”不在”を感じさせる空間作りも面白かった。

 

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同時期に同館で開催されている「Tokyo Contemporary Art Award 2019-2021 受賞記念展」も、風間サチコ作品のファンなので、木版の大作の大迫力を浴びまくって堪能した。どちらも会期は6月20日までで、現在閉館中。宣言延長となったらどうなるのか…このまま中止になってしまったら残念過ぎる。他のイベントもたくさんの職種も制限がかけられているのに、オリンピックは行うって、本当に?

 

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◆早くも梅雨の気配。洗濯物に関してはスッキリしないけれど、キノコ鑑賞が趣味の私にとっては、いよいよ季節が来た!とワクワクする。かき氷も始まったし(初モノは”ずんだ甘酒”)近場での小さな楽しみで気分をあげている。

〜2021年5月〜

ポキート劇場:217

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ポキート劇場:216

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電線絵画 と ノマドランド

◆練馬区立美術館で「電線絵画展」(4月18日まで・月休)を観た。ある時から興味惹かれる企画が多くなったと感じているけど、今回もキュレーターさんが10年もかけて形になったものらしい。電線や電信柱と碍子くくりの展覧会だなんて今まで無かったはず。タイトルの文字が電線でつながっているデザインもグッと来るし、とても面白かった! 明治から昭和に描かれた作品が主で、電気という新たな時代への興味が、描かずにいられなかったと(あえて描かない派もいた)。

小林清親の錦絵、川瀬巴水の木版画などは近代の情景がほんとに素晴らしいし、岡鹿之助のやや抽象的な油絵も良かった。朝井閑右衛門の電線はホースのように太く、異常なほどの興味を感じる。碍子を間近に見たのは初めてだった。

なかでも気に入ったのは、藤牧義夫「隅田川両岸画巻」という長い墨絵の巻物。生活風景が路地を歩くように描かれてあり、匂いまで感じられそうなほど上手くて、ずっと観ていられた。それと、山口晃の漫画「趣都(電線でござる)」も楽しい!

この頃は電線を邪魔に思うことは多いけれど、子供の頃に見た宮沢賢治「月夜の電信柱」の挿絵には心が踊ったし、電線にとまる五線譜のような鳥の連なりや、冬の夕暮れの鉄塔と電線の風景は美しいと思う。なかなか新鮮な視点の展覧会でオススメしたい。

 

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◆米アカデミー賞最有力候補と言われている映画「ノマドランド」。もったいないほど劇場は空いていたけど、心に響く素晴らしい作品だった。シワシワのマクドーマンドの存在感、ドライなテンポの監督の手腕、あまり目にしない荒涼としたアメリカの景色と現実。身に沁みるというか、ザワザワさせられたというか、実在のノマドワーカー達も出演していてリアルで。

生きてゆくとは? 年をとっても働き続けるのは幸せでもあり、辛い事でもあり。自由と安定、思い出と共にずっといるのか、ばっさり捨ててしまうのか、その都度いろいろと選ぶのが人生なのかもしれない。

◆桜が散る頃からアミガサタケが出てきて、ウキウキ嬉しい春。こんなにたくさん遭遇するのは初めてで、どうか採られませんようにと思いながら観察している。桜もキノコも早くて、あっという間に暑くなってしまいそう。オリンピック開催って現実感がないような。

〜2021年4月〜

ポキート劇場:215

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寝るまえ1分おんどく 366日

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児童書イラスト/脳科学者 加藤俊徳 監修/西東社(2021)

角川武蔵野ミュージアム

◆2020年11月6日にオープンした角川武蔵野ミュージアム。仕事やコロナの状況を見つつ行く機会を伺っていたら、一番目当ての展覧会が3月7日までだったので、今しかないと慌てた「米谷けん+ジュリア展 〜だから私は救われたい〜」(5月末まで会期延長となって良かったけれど)。ちょっと遠くても行ったかいのある素晴らしいものだった。入場制限と平日のせいか混雑もなく安心で。

 

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暗く静かな空間には、美しいオブジェがいくつもあり、近づいてみると素材は様々。添えられた説明を読んでハッとする。原発事故や環境破壊、気候変動、そしてパンデミック。多くの不安のある中で生きている現代。一時は考えを巡らせるものの、日々に追われてやり過ごしている。より意識を働かせないと、とあらためて思う。

隈研吾の建築も唐突で面白いし、1月から設置された鴻池朋子作品の”武蔵野皮トンビ”の巨大さにも驚いた。話題の本棚劇場では地震にあいたくないなと思った。荒俣ワンダー秘宝館は小規模ながら、博物学好きにはたまらなかった。何しろ、昔夢中になった”鼻行類”の模型があったのだから。

隣接する公園にある「チームラボ どんぐりの森の呼応する生命」はまだ時間が早くて、被せてあった袋をひとつひとつ外しているところで、へぇ!と思った。たしかに大事なことかもしれない。次回は光が灯るのを観てみたい。桜の頃は混雑するはずだから、また別の展示に別の時間帯で行ってみたい。

 

◆あの恐ろしかった時からもう10年。なんて早かった月日。解決していない事が多すぎる。そして、さらなる今の困難。地球の、自然界の、どうしようもない力。人は傲慢になりすぎたように感じる。

〜2021年3月〜

ポキート劇場:214

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石岡瑛子の大回顧展

◆去年の11月以来ほぼ3ヶ月ぶりに電車に乗った。こんな時期なので会期延長にならないかと気をもんでいた展覧会が、とうとう残り一週間となり、もう行かなくては!となったから。東京都現代美術館(Mot)での「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」(2020年11/14〜2021年2/14)は、没後8年で世界初の大規模な回顧展であり、コロナ禍の時期になってしまったのが惜しいほど、最高に素晴らしいものだった。彼女自身の仕事に魅了されるのはモチロン、内容の密度や構成も良くて、ラストに少女時代の作品(すでにプロ級)というのにキュンとなった。

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平日の昼前に美術館に到着したら、当日券の人は70分待ちで!文庫本を持参していて助かった。入場してからは、グラフィック、映像、衣装などを辿り、細かく赤を入れた指示や絵コンテをじっくり、懐かしいPARCOのCMや美しい映画を楽しみ、北京オリンピックは圧巻だったなぁと切なくなったり。面白いコスチュームがたくさん観られたのも嬉しかった。圧倒的なパワーと才能を浴びて2時間半近く経っていて、ヘトヘトになってしまった。本当に凄い人。不要なワケが無い、まさに観るべき展覧会だと声を大にしたい。

 

◆地元の手打ちうどん屋さんがテイクアウトを始めたので、うどんと出汁と鶏天に海老天と玉子焼を購入。こういう楽しみ方もいいな、いろんな店でやってみようと思うこの頃。新しい生活様式。食べたいし応援したい。

〜2021年2月〜

あいかわらずの日々

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◆2021年になったからといって世の中に明るい兆しはまだ見えてこない。お正月に親戚との集まりもせず、なんだかやっぱりツマラナイ。仕事の打ち合わせもリモートでやった。楽ではあるけれど、街に出て人と会わないと、お洒落をする機会も気持ちもなくなってしまう。

行きたい展覧会もあるんだけど、もうそろそろ終わってしまうなぁ、どうしよう…と思いながら仕事する日々。気兼ねなく出歩いたり、美味しいものを食べながらお喋りしたり、そろそろしたい、早くしたい。

◆そんななか面白かったのは、毎年驚かされる宝島社の新聞広告。今回も面白かったし、2日連続で違うタイプを出してきたのには、伝えたい事の熱が伝わってきた。ホントホント、とかつぶやいてしまう。とりあえず今は、テレビ番組(ドラマ、ドキュメンタリー、バラエティ等)に好きなものがあって良かった。

〜2021年1月〜

ポキート劇場:213

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あっという間の2020年

◆こんなに”街”に出かけない12月というのは、今までなかった。近所での日常的な買い物と一回の外食、歩いても1時間以内のウォーキングぐらい。映画館も美術館もイルミネーションも観に行かないなんて。キラキラした気分のはずの12月なのに。

仕事で時間的にムリというのもあるけれど、心理的にもどうしたって抑えてしまう。それにしても早かった一年。あちこち出歩いててもあっという間なのに、出かけていなくてもあっという間なんだと知った。

 

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◆ネット通販はどうしても多くなる。今年一番、買って良かったものは、”猫壱 バリバリボウル”という猫用爪とぎだった。今までずっと使用していた商品の質が劣悪となり、新たに別のものを探して購入してみたら、とてもとても気に入ってくれて、一日のほとんどをその上で過ごしているほど(時々思い出したように爪を研ぐ)。上部だけ交換できるし、しっかりした造りも素晴らしい!どうかこのままの質を維持して生産し続けてほしい。

そして、マスクをしなくても大丈夫な日々が早く来ますように。

〜2020年12月〜

ポキート劇場:212

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新刊のお知らせ と 仕事の日々

◆11月7日に「ぐんぐん頭のよい子に育つよみきかせ いきもののお話 25」(作:山下美樹/西東社)が出版されました。昨年の「かがくのお話 25」の評判が良いための第二弾ということで。どちらも2話分のイラストを担当していて、背表紙と扉にも使用されてます。キラキラの装丁で、絵本のように楽しみながら物知りになれて、小さなお子さんへのプレゼントにぴったり♪ 

 

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◆今月はもう、こつこつ仕事、せっせと仕事。あとは運転免許の更新に都庁へ行き、近くのケンジタキギャラリーで「塩田千春 消えた展覧会 〜この気持をどこに〜」(12/5まで・日月祝休み)を観たぐらい。コロナの感染者の増大で、免許更新も健診も早め早めに済ませないと!と思って。ダイナミックな塩田さんの細々した小品もわりと好きなので、小さなギャラリー空間でもじっくり観て、もやもやした思いを受けとめる事ができた。

今年の酉の市は熊手を売るのみで、食べ物の屋台も、花園神社名物の見世物小屋も無かったという。昼間に寄ってみたらガランとして寂しかった。毎年ものすごい混雑で、密も密なので仕方ない。まだまだ、ますます、注意が必要ななかで、きっと仕事がはかどるはず。美味しいものと乗れる音楽でがんばろう。

〜2020年11月〜

ポキート劇場:211

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いきもののお話 25

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ぐんぐん頭のよい子に育つよみきかせ/国立科学博物館 監修/山下美樹 作/西東社(2020)

ポキート劇場:210

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鴻池朋子展 と 神宮の杜のアート

◆京橋のアーティゾン美術館はリニューアルされて初めて訪れた。ブリジストン美術館だった昔々以来。日時指定制とはいえ時間の幅があるし、シンプルで品があっていいなと思う。「鴻池朋子 ちゅうがえり」(10月25日まで)は6月からやっていたのに、ようやく行けて、本当に素晴らしかった! 各地の芸術祭で観てきたなか、去年の瀬戸内の大島(春会期)は感動して、夏のみ展示された”皮トンビ”が観られなかったのが残念だった。それがドーンと館内にいて、迫力にびっくり。あの林の中で出会ったら、より畏怖を感じただろうな。とはいえ、毛皮の下をくぐったり滑り台で降りたり、会場の構成がなかなか無い面白さで良かった。

影絵や竜巻、蛾に毛皮。自然に取り込まれた顔。不穏で土俗的で心がざわつく作品は、”この世界は人間だけのものではない”と再認識する。人々の思い出をモチーフにしたパッチワーク作品はキュンとするし、動画では作家本人の姿が…。下の階の同時開催の作品(青木繁「海の幸」もパウル・クレーも)まで楽しめて満足度が高った。終了間近だけどかなりオススメ。

 

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◆コロナ禍でしばらく会っていなかった友達と、ようやく会おうとなり、密を避けて楽しむにはと考えて、そういえば行きそびれていた明治神宮で集合することにした。創建百年のイベントのひとつ「神宮の杜芸術祝祭 天空海闊」は鬱蒼とした木々の中を歩きながら、四人のアーティストの野外彫刻に出会える(12月13日まで)。中のレストランでのランチも良かったし、厳かな本殿は人もまばらで静けさがあったし、都心とは思えない森林浴で旅行気分が味わえた。観光客だらけの時だったら雰囲気減だったはずだもの。身近な所で高い木々に囲まれるなんて貴重な場所だから、また季節ごとに訪れたいと思う。

うまく時間が空いた時に、やらなくてはいけない事、行かなくちゃと思っていた所へ行くようにしている。年末にかけてなかなか行けなくなりそう。年内にまた誰かと会う機会が持てるといいけど、世の中はどうなるかな、とりあえずコツコツ頑張ろう。

〜2020年10月・その2〜

モータウン と 百段階段

◆「メイキング オブ モータウン」は最高に面白いドキュメンタリー映画だった。創設者のベリー・ゴーディJr.は89歳だった去年、引退宣言をしたというけど、目を輝かせてパワフルに語る姿は、とてもそんな年に見えない。音楽的にもビジネス的にもセンスがあったし、人間的魅力もあっての成功だったのだと思う。戦友ともいうべきスモーキー・ロビンソン(80)との仲の良さが観てて楽しい。

60年代の会議の音声や貴重な映像(11歳のスティービー・ワンダー!に9歳のマイケル・ジャクソン!シュープリームス等など)もたっぷり。創世記の面白エピソードもあれば、今に連なる人種問題のことも。マーヴィン・ゲイの名曲”What's going on"のエピソードには感極まって涙が出た。その後の悲劇を思うとつい。マイケルもホイットニーもアレサも、もういないのだと切なくなる。あの頃の音楽が好きな人にはたまらない作品。

 

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◆目黒のホテル雅叙園東京での「tagboat × 百段階段」(10月11日まで)にも行ってみた。百段階段は二度目だったけど、あの絢爛豪華でおどろおどろしくもある歴史的な空間と現代アートの組み合わせは、悪くなかったものの、建物の面白さにはちょっと勝ててないなと思う。好みの作品が少なかったせいもある。鹿をモチーフとした西島雄志「存在の力」が一番気に入った。異空間を覗く体験として、今後もこういった試みはいろんな所で観てみたい。

彼岸花からの金木犀。気持ちのいい高い空。一年で一番好きな季節。目にも口にも美味しいものばかり。マスクが余計なのは相変わらずで、映画館の両隣には人が座るように戻った。これだけはまだ戻ってほしくなかったな(ただの観客としては)。

〜2020年10月〜

ポキート劇場:209

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月刊絵本と「再構築」と、としまえん

◆久しぶりに手掛けた月刊絵本「いえの いえで」(作:苅田澄子/ひかりのくに)が、おはなしひかりのくに9月号として配本された。年間購読のものなので単独の購入はできず、書店での取り扱いも無いけれど、手元に届いた子達にはきっと気に入ってもらえてるはず。家の中や街を描くのは大変で、コロナ禍の自粛宣言が出ている時も関係なく部屋にこもってコツコツ集中していた。誘惑が無かったおかげか、なかなか面白い絵本に仕上がったんじゃないかなと思う。

 

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◆練馬区立美術館「Re construction 再構築」(9月27日まで)は美術館の35周年記念として、収蔵作品を現代の作家4人が再構築した作品とともに展示するという試み。もともと好きで目当てであった青山悟(刺繍)と大小島真木(自然界を扱ったインスタレーション)がやはり印象的で素晴らしかった。青山作品はコロナ禍も含めた社会的なことを、大小島作品からは、この世界にいるのは人間だけではないのだという思いを感じた。実は各々テーマが振り分けられており、色(流)空間(冨井)身体(大小島)メディア(青山)なのだった。しっかり読んで鑑賞すると、なるほど〜となった。

 

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◆8月末に都内の老舗遊園地”としまえん”が閉園した。練馬区民ではないけれど比較的行きやすいので、子供の頃から親しんだし大人になってもたまに訪れた。特に子供の頃は木馬の会(年間フリーパス)にも入っていたほどで、思い出がたくさんある。プールも楽しかったけど、夜になって鬱蒼とした木々の中をイルミネーションが灯り、アトラクションからの歓声とリーンリーンと虫の声。ミステリーゾーンに尻込みしてもアフリカ館は絶対に入った。カビ臭さもシュールなラストもたまらなかった。松明のもと現地の人のリンボーダンスやバンブーダンス、芸能人の星空のステージ、もう異世界との遭遇だった。そして最も好きだったのは毎週末の花火大会。出し惜しみなく濃縮された、夢のような30分間だった。隅田川の花火を観た時、なんて間延びしてるんだろと思ったくらい。

閉園前の最後の平日の花火を観に行き、正面入口前で7分間のショーを堪能した。コロナ禍じゃなければ、制限でチケット完売じゃなければ入場して、美しいエルドラドと大好きなフライングパイレーツに乗りたかったな。今までどうもありがとう。

そして、閉園翌朝の新聞広告がサプライズだった!グッと来た。そう、広告が毎回面白かったんだ。さすが、としまえん。

〜2020年9月〜

いえの いえで

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<月刊絵本> おはなしひかりのくに9月号

作:苅田澄子/絵:かわむらふゆみ/ひかりのくに(2020)

 

(年間購読のみで、書店での取り扱いはありません)

映画「マルモイ」と 夏キノコ 2020

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◆韓国映画「マルモイ ことばあつめ」を観た。少し前に観た「タクシー運転手 約束は海を越えて」がとても良くて、主演のソン・ガンホはモチロン、助演のおっちゃんユ・ヘジンが気に入ってしまって。今回は彼が主役!そして脚本家の初監督作品とのこと。なるほど似たような展開、コミカルでハラハラし、やがてホロリと。

日本統治時代、朝鮮語の辞書を作るために命がけで奮闘した人々がいたという実話を元にしたストーリー。言葉も名前も変えさせられるなんて大変な苦痛だ。当然日本人は悪者だけど、抗日反日を声高にした作品とは感じない。こういう時代があったという事。植民地にされた後に”自国の言葉を取り戻した唯一の国”という事に、へぇーー!と驚いた。これは誇りに思うはず。子役がかわいいし、キャスト達が皆とても魅力的。ホットクを食べたくなる。観て良かった。

 

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◆あとは、夏のキノコ観察 2020。キノコだけじゃなく人間とも、もっとたくさん会いたいのに、あと4ヶ月と1週間で今年も終わってしまうなんて!なんて恐ろしい。。

〜2020年8月〜

ポキート劇場:208

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うみ の いきもの

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 みみちゃんえほん8月号/ことばイラスト/学研教育みらい(2020)

オラファー・エリアソン と 自伝的な映画ふたつ

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◆東京都現代美術館での「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」(9月27日まで・月休)は見応えがあって良かった。昨品を観ることで環境についての意識も高めてくれる、アートの持つ力のひとつだ。「太陽の中心への探査」という作品は、カラフルな多面体がキラキラ輝いていて、その光と動きはソーラーエネルギーが生み出している…と説明を読んでも、いったいどういう仕組みかはわからない。ただ、目の前の作品は美しく回り、しばらく見とれてしまう。

光と影と色彩と多面体と自然現象と。「サステナビリティの研究室」は自然のモノを使っていろいろと研究しているのが面白いし、今回のタイトルとなっている新作は、水面の揺れを周囲に投影して変化する仕掛けが楽しくて、とても気に入った。自分も作品の中に参加できるものが多いので、小さな子供も楽しんでいた。大人はさらに、背筋を伸ばして日常を考えたい。アイスランド系デンマーク人ならではの氷河の記録写真(1999年と2019年に撮影)は衝撃的で、二十年の変化は世界的に自然災害が増えていることに通じているはずだから。

 

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◆韓国の若き女性監督の長編デビュー作である「はちどり」。キム・ボラ監督自身の体験をベースにして、1994年のソウルの団地に暮らす中学2年生の少女の日常が淡々と描かれる。無表情だけど、怒りや不安や悲しみ、ドキドキもある日々。その年頃にありがちな事だったり、韓国の時代背景、男尊女卑、学力社会などが見えてくる。心の通じ合う大人との出会いは一生の宝物。自分の将来は輝いているのかな? 少女の美しく不安定な眼差しに泣けた。じんわりと心に残る名作。

◆スペインのアルモドバル監督の「ペイン&グローリー」も自身を投影した主人公が、昔を回想したり絶交した旧友や元恋人と再会したり、人生のまとめ的な作品だった。母親への敬愛や男性どうしの恋愛を繰り返し描いてきた監督も年を取り(バンデラスもだいぶ!)身体にガタが来て、これだけは言っておきたいと思って作り上げたのだと思う。切なさに泣けた(再び)し、魅力的なペネロペ・クルスや色鮮やかなインテリアなど、相変わらず素晴らしい。

〜2020年7月〜

ポキート劇場:207

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ピーター・ドイグ展 と わたしの若草物語

◆東京でも緊急事態宣言の解除となり、三ヶ月ぶりに美術館に行った。再開を待ち望んでいた「ピーター・ドイグ展」(東京国立近代美術館にて10月11日まで・月休)は、本来なら6月14日までの会期だったので、コロナ禍で閉館のまま終了となったらどうしよう!と気をもんでいたので、延長の発表にはホッとした。予約制になっても、前売りチケットを持っていて混んでいなければ入場できる。

平日の午前、まあまあの人数。大きな作品が多く、観やすかった。カナダ時代の、森と湖とボートの世界が圧倒的に好き。静かな風景なのに自然の美が饒舌で、目からは賑やかなのに、耳からは何も聞こえない。星空のきらめきが無音のように。トリニダード・トバゴ時代ではまた違う描き方となり、静かさにポップな雰囲気がプラスされて、日傘の男、浜辺に寝そべる人たち、ライオン、ピンポン…と不思議な面白さがある。

映画をモチーフとしたシリーズは、タイトルを見ないようにして、何の映画か想像して楽しんだ。住む場所や多くの映画から影響を受けているのだな、と思う。どっぷりイイものを堪能できた。4階のコレクションコーナーで、大好きな小倉遊亀の「欲女 その一」と久しぶりに会えたのも満足。

 

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◆映画館も三ヶ月ぶり。座席が一つおきで販売というのは、経営的には厳しいと思うけど、観る側には快適でいい。「ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語」は久しぶりに劇場で楽しむのに相応しい作品だった。女性向きだからか、グッと来る場面が多くて涙がでるのに、マスクをしているので拭いづらいったら。

衣装のセンスの良さ(アカデミー賞衣装デザイン賞受賞)と美しい風景(森、湖、海辺など)と。え?あの古典を今またやるの?と思ったけど、現代にも通じる事はあるし、姉妹育ちとしては共感することもある。子供の頃に児童書で読んだり、テレビで映画を観たりした記憶はある。不変のテーマを新しい感性で、繰り返しリメイクする意味はあるのだと思う。主役のシアーシャ・ローナンの魅力があふれている!のを筆頭として、女優たちが素晴らしい!(ローラ・ダーンもメリル・ストリープも、ふてぶてしいフローレンス・ピューも)しばらく余韻にひたれる作品だった。

これから何が起こるかわからないので、観たいモノはなるべく早く行っておかないと。そしてやはり、絵は実物を美術館で、映画は映画館で観ないと、100%の魅力はわからない。あとは、、友達と会ってハシャゲる日が来ることを。

〜2020年6月〜

ポキート劇場:206

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ようやく、、まだまだ、、少しずつ

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◆1月下旬から美容院に行っていない。3月下旬から映画館にも美術館にも行っていないし、電車にも乗っていない。不要不急で怖さもあってキャンセルした歯のクリーニングには、先日4ヶ月半ぶりに行った!ちょうど東京の緊急事態宣言の解除をした後で、気持ちが少し楽になった時だったし、スッキリしたし診てもらって安心した。

新たな感染者の数に一喜一憂しながら、気を緩めすぎない程度に進んでいきたいとは思う。来月には美術館に行けるかな。近所を歩くだけじゃなく、もっと遠い所へ、もっと広い世界へ出て行ける日が、また来てほしい。ZOOM飲み会もしてみたけれど、やっぱり生の集まりがしたい。3密、ソーシャルディスタンス、と来ての「新しい生活様式」とは、なんとも他人行儀な言葉。歴史の教科書に載る日々はきっとまだ続きそう。

〜2020年5月〜

ポキート劇場:205

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ポキート劇場:204

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STAY HOME の日々

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◆ひたすらコツコツ仕事して、たまに外に出るのは、ウォーキングと買い物の時ぐらい。たいていは早起きして40分ほど歩くのだけど、このご時世、ジョギングの人が増えてしまい、いつも行っていた広い公園の混雑を避けることにした。住宅街の花々を見て歩くだけというのも楽しく思う。あとは猫と仲良くしたり、radikoでいろいろなラジオ、またはCDを聴いたりすると、気持ちがあがる。そんな4月。そのうちスパーンとすることが無くなったら? しなくちゃならない事はいくらでもある。すぐにお金になるわけじゃないのが困りもの。

コロナビールの空き瓶を見つけて、コロナだ…とニヤリ。久しぶりに飲みたくなるよね、あの頃みたいにライムを絞って。

〜2020年4月〜

ポキート劇場:203

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映画をひとつ、展覧会をひとつ、そして外出自粛

なんとも重苦しい日々となっている。”不要不急の外出の自粛”はしっかり守りたいけど、長期戦を覚悟しなくては。自粛要請が出る前に、映画をひとつ、展覧会をひとつ観ていた。30分ほど歩いて行けて、広く空いている映画館を選んだり、展覧会へは今月最初で最後の電車に乗ったけど空いていて、広大な生田緑地が会場だったし、今となっては行っておいて本当に良かった。

◆映画「ジュディ 虹の彼方に」は、10代でスターとなったジュディ・ガーランドの晩年を中心に、子供時代の苦しい姿が差し込まれ、大人たちに薬と言葉で支配されてきたことがわかる。ガリガリで精神的に不安定な47歳のジュディは痛々しく、スターの宿命なのか、こんな若くして亡くなっていたなんて知らなかった。

子供の頃テレビでたまに放映された「オズの魔法使い」の夢のような世界に魅了されたし、ちょっと怖いところも好きだった。まさか撮影時にあんな辛い思いがあったとは。レネー・ゼルウィガーはアカデミー主演女優賞なだけあって貫禄の演技と歌唱。ロンドンの世話係の女性も良かったし、ゲイカップルの家に行く場面がとても好きなエピソードだった。

 

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◆川崎市岡本太郎美術館での「第23回 岡本太郎現代芸術賞展」は実に濃厚で、パッションがほとばしる力作揃い!面白い作品だらけの中、やはり岡本太郎賞の野々上聡人作品は、平面も立体もアニメーションまでも、ぎっしりと迫力満点で凄まじい熱量!すごい。岡本敏子賞の根本裕子作品「野良犬」も、恐ろしいほどの凄み。陶土で作られているのにも驚く。

4月12日まで(月休)だけど、こんな素晴らしい展覧会が観てもらえないのはモッタイナイ。あらゆる業種が非常事態で、いったいいつまで続くのか。。ひたすらせっせと仕事をしていて、もともと引き籠もり期間だったけれど、息抜きに人と会うのもガマン。どうか、早く良い兆しが出てくることを願うばかり。

〜2020年3月〜

ポキート劇場:202

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まだある!ふしぎの図鑑

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 子ども図鑑プレNEO/イラスト/小学館(2020)

彫刻展と 映像祭と QUEEN遊び

◆府中市美術館での「青木野枝 霧と鉄と山と」(3月1日まで)が素晴らしかった。2018年の「水と土の芸術祭」で観た石鹸の作品に再び会えて、大好きなシリーズだけど、やはり代表的なのはダイナミックな鉄の彫刻たち。展覧会のタイトルのように、山のようにも森のようにも感じる造形。石膏越しに眺める鉄の林は風景となり、棘と卵の組み合わせにはストーリーを想像する面白さ。

点数は多くないものの、作品のスケール感で圧倒された。「展示場所に合わせて作られ、展示が終わると解体され」るという。そんな!これを?潔いというのか、保管の問題もあるのか、パワフルなのは間違いないし、インスタレーションと捉えれば納得で、アートの一期一会も大切にしたい。

 

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恵比寿映像祭(2月23日まで)は無料で楽しめる作品もたくさんあり、さらに有料上映のアジアの短編アニメーション10作を集めた"DigiCon6 ASIA"を観てみた。今回の映像祭のテーマが「時間を想像する」ということで、時間=生と死を扱ったものが多いように感じた。もっとナンセンスなタイプもあればいいのにと思い、気に入った作品は二つ。しばたたかひろ「何度でも忘れよう」(熊のぬいぐるみが主人公のダークなタイプ)と、リュウ・マオニン「僕と磁石と大切な友達」。特にこの中国の作品は、こってりした絵と素朴なナレーションと切ないストーリーで、たまらなく良かった!(もう上映は終了)またどこかで別の作品が観てみたい。

◆銀座のSONY PARKでやっている「クイーンと遊ぼう」が楽しい♫ QUEENの音楽を体験しながら遊べるなんて”待ってました”な企画。ボヘミアン・ラプソディのMVに顔ハメ参加できるなんて夢のようだし、カラオケボックスでは例のマイクスタンドが渡されるし、平日は空いていたし、また行ってしまう予感。3月15日まで。

でも、コロナウィルスの心配と仕事の具合で、なかなか気楽には外出できなさそう。花粉も酷くならないことを願うし、とにかく世の中の重い事態が明るい方へ行って欲しいと思う。

〜2020年2月〜

ポキート劇場:201

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暖かな1月、久しぶりに映画など

◆2020年がスタートして、あっという間に一ヶ月経ってしまっている。正月明けに初めて訪れた生田緑地が、天気も良かったせいか気持ちよくて、こんな所が近所にあったらいいなぁと気に入ってしまった。花の季節、新緑、きのこ!と何度も訪れる予感。川崎市岡本太郎美術館での「芸術と社会 現代の作家たち」展を目当てに行き、常設とともに素晴らしく、たっぷり楽しめた。今回はあきらめた民家園もそのうち、きっと。

きのこといえば、ガシャポンの「LEDきのこライト」の出来の良さに興奮して、揃えたのは当然のこと。

 

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◆映画はカンヌでパルムドール受賞の「パラサイト」! ポン・ジュノ監督作品はほとんど観ているファンだけど、今回はもう、ストーリーの秀逸さに圧倒された。視覚と嗅覚、ドキドキハラハラ、衝撃!、、観たあとのザワツキと高揚感。社会問題を扱いながらエンターテインメント性もあり、感情を揺さぶられまくる。豪邸の構造は韓国ならではだろうし、半地下住居の構造もまた驚く。なんだか物凄いモノを観てしまった、と思うし観るべきな作品だった。

◆都内ではもう終了してしまったけれど、上映ラスト前日に駆け込んだ映画「シュヴァルの理想宮」も素晴らしかった。こちらは静かな感動があり、涙を流さずにはいられない。風景の美しさはまるで当時のままのようだし、俳優たちは皆、品格を感じさせるような、主役も奥さんも上司もとても良かった。

シュヴァルについては前から知っていて、いつか観に行ってみたい場所のひとつであり、昔そこを旅行した友達から絵葉書をもらったこともある。映画でも登場したあの絵葉書。絶対捨てたはずはないのに、今のところ見つからない…。偏屈な男の人生は、悲しみに見舞われながらも、コツコツとやり遂げた実話。こういう芸術には敵わないな。

〜2020年1月〜

できてそうでできてない勉強以前の「お作法」13

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プレジデントFamily{2020冬号}イラスト/プレジデント社(2019)

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ミナ ペルホネン / 皆川明 つづく

◆リニューアルしてから初めて訪れた東京都現代美術館。「ミナ ペルホネン / 皆川明 つづく」展を観るため、ミナの服ではないけれど、自分なりにお洒落して。かなり昔、新宿伊勢丹4階のセレクトコーナーに少しばかりミナの服を扱っていた頃に、生地が気に入って買ったスカートは、紫色のベルベットにグレーのトンボ柄が盛り上がっているもの。サイズが少し小さかったのに無理に着ていて、さすがに着るのを諦めても捨てられず、トートバッグに作り直せないかと思って、裁縫の得意な友達に渡してそのままじゃなかったっけ?!と思い出した。(会場にその生地は無かった)

そう。ミナの服作りは生地のデザインから始まる。アイデアはモチロン良いけど、それを実現する職人さんに敬服してしまう。細かい指示にとことん付き合う信頼関係あってこそ。流行を追わず、長く着てもらう、ファストファッションとは逆の姿勢。ファストファッションの需要は否定できないし、価格的な問題は仕方ない。

イラストもとても素敵で、新聞の連載はいつも楽しみにしている。服の愛用者の日常の映像はいい雰囲気だし、服にまつわるエピソードの一つ一つが、じんわりと感動的で良かった。なんだか哲学的でオススメの展覧会、2月16日まで。

 

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◆リニューアルオープンといえば、渋谷パルコにも興奮した。パルコ2の方は今風のホテルになっていたけど、パルコ1に入ると高級ブランドのロエベやグッチがドーン!こってり濃厚なワクワク感で、タイルから壁から楽しい(ドードー鳥のマフラーなんて素敵すぎる!…見るだけでも満足)。上に行けば美術手帖のショップでアート作品が買えたり、ゲームの世界もあって、服だけじゃないいろいろなタイプのショップを巡りながら「面白い」という感覚を刺激された。劇場やミニシアターも復活で嬉しい。地下の食堂街もごちゃ混ぜ世界で、あちこち入ってみたくなる。また行ってみよう。

◆千葉市美術館で12月28日までの「目 非常にはっきりとわからない」展は私にはいまいち響かなかった。今年一番と絶賛する人、ただニヤニヤする人、なにこれ?とつまらなく思う人。評価は分かれているようだけど、行く前にたぶんこういう状態なんじゃないかな、と想像していたそのままだった。何度か訪れたことがある千葉市美術館が改装中という時ならではの展覧会ということで。

何度か通った人は変化に気づくのか、ほんとにモヤモヤしてしまう。「目」の作品は今まで各地の芸術祭などで面白く観てきたので、つい期待してしまうので残念だったけど、来年のオリンピック期間の「まさゆめ」プロジェクトは楽しみにしている。

それにしても、今年もあっという間に過ぎてしまった。。

〜2019年12月〜

ポキート劇場:199

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わちゃわちゃゴタゴタ忙しなく

◆11月は、今まで伸ばし伸ばしで手をつけなかったことをやってスッキリ!

三年半以上使用してたスマホが何かと限界を感じて、機種変更と共に格安スマホの会社も変更し、そこのwifiも使うことに。ずいぶん長いことADSLで頑張ってきたので、やっっっと!快適〜。今頃なデビューとなった。そして迷惑メールだらけに嫌気が差していたプロバイダーも解約、ついでに滅多に使わなくなったNTT電話も解約。毎月の通信料のスリム化ができた。

 

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◆部屋に長いこと巨大な箱で鎮座していた”大福”iMac君を、リネットジャパンに送り出してデータ消去も依頼し、歴代のPHSとスマホも同梱した(いちおう記念撮影をして)。

◆健診で引っかかって精密検査を受けたのも結構大変だった。結果は問題なかったけれど、数年後にまた受けることを思うと憂鬱だし、やっぱり年齢が上がると何かと病院に行く機会が増えていくのかな。検査のための食事制限は寂しかったけど、今月は外食で「当たり」があって嬉しかった。西葛西のインドと、練馬の中華と、再訪決定♪

頭を使って、身体も診てもらって、仕事もわさわさしてしまったけど、これからじっくり取り組まなくては。頑張ります!

〜2019年11月〜

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